神岡探訪記


その1/1997年11月訪問(4)

 一通り見て撮り終えたので,次の目的地である上部軌道を目指すことにする.冒頭にも記したが場所や行き方等を碌に調べていなかったので,いつものことだが現地にて探すことになる(*11).とにかく山の上の方だろうと先程の事務所への道を再び登る.たまたま先程の人がいたので,上部軌道のことを訊いてみた.確かに山の上の方に坑道と軌道はあるとのこと.当然筆者は徒歩なのだが,徒歩で行けないことはない,ということだ.今までにも目的地まで長時間歩かされるのは普通だったし,常人にとっては多少難であっても問題ではなかった.ところが今回はそうでないことになる.
 教えられた方向に山道を進む.事業所の敷地を出るとただの山道で,舗装もなく恐らく林道である(*12).勾配もカーブもきつい.途中分かれ道もあったが道なりに進めば良いとのことなので道なりに進む.1時間,2時間….歩いても歩いても一向に森ばかりで何もない.見も知らぬ山の中で独り,心細いのでずっとラジオを聴いていた.こんな山の中でも山の向こう側の富山の放送が聴こえてくる.筆者はどんなに心細い土地でもラジオさえ聴こえていれば平気なタチなのだが,今回はそれでもさすがに心細い.
 3時間近く歩いただろうか.ふと落石避けかスノーシェッドなのか,コンクリートの短い覆いが出現した.それを抜けると視界が開け,広場に出た.
 広場は半分コンクリートでそれ以外は地面が見えていて,右手は谷になっている.その右手のコンクリートに二条のレールが.その向こうにはポイントと,レールを跨ぐ形でトタン張りの小さな建物,そしてさらに崖沿いにレールが続く.
 そこは山に囲まれ,人の気配はおろか鳥のさえずりさえもない静寂の地であった.視界は全て山.晴れてはいるが黒雲が見え隠れし,時折小雨がぱらつき,冷たい風が通り抜ける.  下界とは別の世界だ.恐らく自分以外は半径5キロ以内に人はいまい.見渡せばそこには廃墟が広っている.何とも言えぬ光景である.
 この軌道はどこまで続いているのだろうか.カメラを片手に恐る恐るレールの上を歩き出す.軌道は山の中腹を少し切り取り,山肌にへばり付くようにして敷かれている.トタン小屋を抜けた軌道は2つに分岐し,複線になった.谷側の軌道には積み荷の鉱物を貨車から真下に落とすためのものだろうか,レールの直下が空間になっている箇所がある.その空間の底までは5メートルはあろうか.うっかり落ちでもすれば怪我をする.空間は山肌をくり抜いてコンクリートで三方を固めてあるが,廃材やゴミで半分程埋まっている.崖の外に目をやれば鉱車が2両,廃材に紛れて転がっている.状況からして崖上の軌道からそのまま落ちたか落とされたようで,無惨にも落ちたままの形に潰れている.
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広場
上部軌道の入り口.生協の売店等があったという.
壁
谷側を見ると,壁だけが1枚佇んでいた.
軌道
軌道を奥へ進む.軌道のある空間は大変狭い.
荷役施設
採鉱物を貨車から下に落とす設備.線路の下は谷だ.
廃棄車両
その設備から下を覗くと,無惨にも落とされた貨車が潰れていた.

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