神岡探訪記


その4/2001年5月訪問(2)

 炭住や鉱山関係の施設と思われる建造物が山道の両側に続く.いずれも荒廃し,中には潰れてしまっているのもある.程なく道が左右に分かれており,左手前方から左手後方にかけて間違いなく鉱山と思われる施設が広がっていた.右手は恐らく先程の老人が「行けないかも知れない」と言っていた場所であろう.筆者達はまず左の道に入った.
 曲がるとすぐに道沿いに鉄筋の3階建ての建物がある.さらに進むと,「團結」と古い字で壁に大きく文字の書かれた事務所が現れる.その建物の一角に,比較的最近作られたと思われる「栃洞資料室」と書かれた真新しい看板が掲示されている.どうやらこの地の出身者の方々が様々な資料を保管している場所ということらしい.
 この建物に限らないのだが,以後いずれもインターネットサイトで写真を見たことのある光景で,この建物も見覚えがあった.
 事務所の前の道がさらに二つに分かれ,一方は奥に続いており,もう一方はすぐに両側に門があり門の向こうには工場らしい建物が並ぶ.まずはその工場らしい建物群に入ってみる.
 建物に入ると,すぐにレールと台車が見える.建物の端までレールが敷いてあるらしく,車両の修繕等を行う場所であるらしい.資材や工具がまるで今でも使っているかのように置いてある.線路は奥まで続いている.線路に沿って歩く.
 薄暗い建物の中に線路が続く.レールの上には何両もの鉱車や機関車・貨車等が留置(放置)されている.ついさっき運転を終えて休んでいるかのように,整然とした列車の姿で.しかし機関車の集電装置の鉄棒にはツタが絡み,稼働しなくなってある程度の時間が経っていることを伺わせる.
 建物は山の等高線に沿って細長く,線路も複線或いは複々線となって長く敷かれている.本線が山側にあり,側線(小さな引き込み線)が反対側の建物というか部屋に幾つも枝分かれする.その部屋というのは各種の作業部屋なのだが,まるで自宅の物置にでもレールを敷いたかの如く何もかもが小さく,近い.小さい所では8畳程度の大きさの部屋にレールがぐるりと半円になり,そこに子供の背丈程の貨車や機関車が載っている.勿論それは部屋の外の本線と接続されているから,立派な現用の線路である.それを見て暫し立ちすくんだ.
 本線上の貨車等を見ながら,線路が枝分かれする度に隣の部屋を覗いてみる.そこには本当に小さく身近な「レールのある部屋」が実現されていた.この感動はどう伝えれば良いのか判らないが,この文と写真の表現から想像していただきたい.
 程なく建物は上下左右に広くなる.同時にそこにある設備も大規模になり,小さな修繕施設から大きな鉱山施設と移り変わる.貨車から採鉱物等を下にある選炭場に落とす「クランピー」と呼ばれる設備や,貨車を急勾配の「インクライン」という線路に移し替える分岐器,人車(人が乗る貨車のような車両)へ乗り降りするホームのような設備等が現れる.線路も3〜4本に増え,ここをたくさんの鉱石列車が行き交う風景が想像できる.信号や交換(行き違い)設備もあり,列車本数の多さを物語っていた.
 しかしこれだけの大規模な施設ながら老朽化甚だしく,本来の建物の柱とは別に,近くの山で調達したと思われる急ごしらえの細い丸太が2〜3メートルおきにつっかえ棒の如く建てられており,それだけこの建物が上からの荷重(=積雪)に対して危険であることが判る.事実,途中で建物が全く全幅に亘って崩壊しており,先に進めない箇所があった.表に出てみると,まるでパワーショベルか何かで取り壊したかのように隣接する事務所もろとも崩れていた.国内有数の豪雪地であるから無理もないのかも知れないが,改めて雪の恐ろしさを知らされる.
 外に出たついでに,外界の様子を見てみた.位置関係が前後するが,初めに入った建物は,表側が事務所になっている.事務所の外は通常の未舗装の通路で,その通路の谷側にも倉庫等の建物がありその裏側が本当に谷になっている.その谷は奥へ進むに従って底が深くなっており,いずれ高低差が数十メートルにもなる.事務所群が終わると,2本の線路が外へ分岐し,その先は崖際まで続き,その地面より数メートル程線路と枕木だけが中空へ突き出ている.しかもターンテーブルで3方向に分岐し,同じように崖上に突き出ている.確かな用途は判らないが,貨車から鉱石等を下に落とすための物であろう.後でこの場所の下に行くと鉱石を道路上に,つまり道路上のトラックか何かへそのまま積み込むようになっている設備があった.
 線路はそれ以外にも幾つか分岐しており,うち2本の線路を跨いで鉄骨の櫓がある.これは重量物を移動したりするためであろうが,他にも藪に覆われて何だか判らなくなってしまった枝線が何本も確認できる.
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神岡鉱山−栃洞
屋根を支える支柱が並ぶ.
神岡鉱山−栃洞
標識灯のスイッチ.
神岡鉱山−栃洞
雪で潰れた事務所.
神岡鉱山−栃洞
貨車が並ぶ.上に住居が見える.
神岡鉱山−栃洞
ヤード.

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