廃線めぐりW
北 陸 ( 1 )
W−1 尾小屋鉄道(1977年廃止,新小松−尾小屋16.8km)
 1993年秋,友人を「能登半島と兼六園,東尋坊に連れてってあげる」などとそそのかし,北陸を旅した.本当のところは立山砂防軌道とこの尾小屋鉄道が目的だったが,一人では淋しいので友人に同行を願った.
 尾小屋鉄道は,尾小屋鉱山の鉱石運搬を目的として1919年に個人経営として開業した.1962年に鉱山が閉鎖され,地元の足として一人立ちするかに見えた.しかし元々沿線人口は少なく,旅客輸送だけでは存続はとうてい無理であった.それでもその後15年持ちこたえ,1977年に廃止された.軽便鉄道としては遅くまで残っていたので,記憶に新しい方も多いことと思う.
 廃止後,尾小屋駅はいくつかの車両と共に鉄道愛好団体に買い取られ,またその他の車両も殆どが小松市や市民団体に引き取られてその一部は小松市内で動態保存されていることは周知の通りである.
 10月初旬のとある土曜日の午後,金沢の兼六園を見物した後,小松駅に降り立った.旧路線に沿ってバス路線があることはわかっていたが,バス乗り場の時刻表を見て仰天した.尾小屋まで行くバスはなんと一日に2本しかないのだ.小松駅発8時と14時.小松に着いた時はもう14時を過ぎていて,尾小屋行きは翌日にせざるを得なかった.しかし,このままでは時間がもったいないので,まだバスの便がある金平まで行くことにした.金平は新小松と尾小屋の中間に位置し,交換駅があったところである.
 金平には特別な思い入れがあった.まだ小学生の頃に読んだ,保育社発行の『軽便鉄道』という軽便鉄道の魅力にとりつかれるきっかけとなった本がある.この本に,金平で1970年頃に撮影された写真が掲載されていて,それがいたく気に入っていた.山あいの駅での列車の交換風景で,初秋の夕暮れの日差しがノスタルジーをかきたてていた.いつかこの写真と同じ風景を,この目で見に行きたいと思っていた.
 バスに乗り約40分,終点金平で下りる.線路跡は川向こうの森の中にあった.すでに農道と化していて,周囲は木々が生い茂っている.そこを辿っていくと,広い水田地帯に出た.道は途中から舗装され,まっすぐに山のほうへと続いている.例の本を持参していたので,その写真が撮られた場所を背景の山の形を見比べながら探す.結局どこかわからず,近くの家の人に写真を見てもらい,やっとその場所を見つけることができた.そこは道が広くなっている程度で,そこに駅があったという痕跡はない.しかし向こうの山の形は明らかに写真と同じである.長年の願いを果たすことができた感動にひたりつつ,定点撮影をしてその場を去った.一緒について来てくれた友人も,別段鉄道のファンではないが,写真と風景とを見比べながら四半世紀前の世界に思いを馳せていた.
 翌朝,小松で一泊した我々は8時発の尾小屋行きバスに乗った.途中ところどころに線路跡や橋梁が残っているのをバスの窓から見ることができた.昨日訪れた金平を過ぎると,道路は山の中に入り険しくなってくる.線路跡は川を挟んだ向こう側にずっと続いている.信号機用の木柱なども残っていた.
 小松から約1時間余り,尾小屋は人家もまばらな山あいの集落であった.
 バスが2往復しかないとあって,ここで過ごせる時間は限られている.折り返しまでの僅かな時間に,駅跡を探し,少なくとも保存されている車両たちはカメラに納めたい.バスの運転手氏に訊ねると,駅の跡はバス停のすぐ近くにあるという.教えられたほうへと駆け出した.発車まで10分,その間に友人が運転手氏に話をつけ,5分だけ発車を遅らせてもらうことになったが,写真を撮るのに精一杯でゆっくり見る余裕はとてもなかった.
 山に囲まれた旧尾小屋駅は,駅舎こそなかったが線路はそっくり残っており,廃止後愛好者によって建てられたと思われる車庫が2棟,その裏には錆ついたターンテーブルが残っていた.車両は,5号機関車とキハ3,2軸のハフ1が上屋付きの柵に囲まれて保存されている.各車とも状態はよい.また雨ざらしではあるが,DC122が留置(というか放置)されていた.こちらは車体に錆が出ている.
 短い訪問で心残りだったが,本来ならもう東尋坊へ向かっている筈のところ,友人の理解の元に予定を遅らせてもらい尾小屋まで来ているのだ.次の上りのバスは午後までない.ここに6時間もいる訳にもいかず,我々はまた駆け足でバスに戻り,尾小屋をあとにした.
 もし旧尾小屋駅を訪ねる場合は,路線バスは本数が少ない上に運賃もかなり高いので,マイカーかレンタカーの使用をお勧めする.場所は小松市内から,国道416号線を1時間ほど行った所にある.道沿いには民家もあまりないので,場所探しには注意されたい.
 ことのついでに保存車両について記すと,DC121,キハ1,ホハフ3・8の4両が小松市内の石川県立小松児童会館で「なかよし鉄道」として,子供達を乗せて約470メートルの線路を往復しているそうである.北陸に行かれる際はぜひ訪ねてみていただきたい.

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