日本粘土鉱業岩手鉱業所専用軌道(岩手県岩泉町)
1998年3月9日/キヤノンEOS630QD
この軌道の存在を知ったのは,岩堀春夫氏著「専用線の機関車」であったと思う.
北東北を回る旅の最重要訪問地としてこの軌道を訪れた.
東北本線の夜行急行で早朝の盛岡に下り,1日に3本しかない路線バスを3時間待つ.8時過ぎ,バスに乗り岩泉方面へ向かう.盛岡の市街地を抜けだんだん山に入って行くにつれて雪が舞い始める.現地までバスで3時間かかることは時刻表から予め判ってはいたが,中間地点である早坂高原に着いた時は積雪も2〜3メートルになっていて辺りも吹雪になっていた.それでもバスは頼もしく筆者を乗せ峠を下りて行く.
当軌道は岩泉町の「名目入」(なめいり)という山の中の集落にある.そこに近付いてきたようなのでバスの運転手氏に「日本粘土に行きたい」旨を告げると「知らない」と言う.そのような工場や事業所は聞いたことがない,と言うのだ.見当違いの場所に来てしまったのかと不安になる.しかし「名目入」はもうすぐなので,とりあえずバスを下りてみることにする.山を抜け少し土地が開けたところに集落がある.名目入停留所はその中心辺りにあった.もし全く違う場所であっても次のバスは4時間待たないとやって来ない.目的の軌道がなくなっているならともかく,違う場所に来てしまってこのまま訪問できず帰る訳にはいかない.
そう思っていたのも束の間,バスを降りた筆者が見たものは,バス停の脇から山に上る一直線の道沿いに並んだ何棟もの木造の長屋と,その頭上に見える工場のような建物群であった.不安は消し飛び,小雪のちらつくその真っ直ぐな道を足早に進んだ.
道はセメントで舗装されていて,両側には木造の長屋が道に沿って並んでいる.長屋は既に使われていないらしく廃墟と化している.
道はだんだん登りがきつくなるが工場は目前である.直線が終わりくねくねと曲がった先に工場があった.木造の大小の建物が数棟.しかし軌道らしきものは見えない.奥に誰かいるようなので声を掛ける.工場内の焼却炉のような所でたくさんの紙屑を燃やしている初老の男性がいた.「東京(本当は埼玉だが)から軌道があると聞き見学に来た」と告げると,「立入禁止にしているのだが,遠くからざわざわ来たのだから少しなら見せてもいい」と言い案内してくれた.埃を被った廃車のような軽乗用車に乗せられ,今いる工場の更に上に行く.道はかなりの勾配で,この軽自動車はかなりの無理をさせられている気がした.
上にも作業所風の建物が幾つかあり,軌道も見える.無事に目的は果たせそうだ.この作業所にも人がいて,初老の氏はここの作業員氏に「少し見学をさせてやってくれ」と伝達した.そして筆者に「30分したら迎えに来るから,それまで自由に見て良い」と言いまた車で下っていった.作業員氏は「端に行くと危ないので気を付けるように」と言って作業に戻って行った.
与えられた時間は30分,本来なら見ることはできなかったかも知れないことを考えれば十分だ.カメラを手に山の中腹に造られた敷地を歩き出す.
敷地は山肌に沿った狭い場所で,軌道も張り付くように敷かれていた.カーブあり勾配あり軌道同士の立体交差ありと小規模ながら変化に富んだ施設である.しかし使われなくなってから結構時が経っているのか,軌道上に留置された貨車等は錆が浮き出て決して良い状態ではなかった.軌道にも背の高い雑草等が生えており,場所によっては生い茂り近づけない箇所もあった.機関車は屋内に置いてあったのでそれ程悪い状態ではなかったが,こちらもしばらく動かしてはいないようだった.
狭いと思っていても時間の過ぎるのは早い.あっという間の30分で,先程の車が上がってくるのが見えたので事務所に戻り作業員氏に礼を述べた.迎えの車に乗り下の事務所で重ねて礼を言い作業所を後にした.ここが紹介されていた前出の書籍で見た窯焼き工場を見ることができなかったのが心残りではあったが,9割方見て回ることができた.
目的が30分で終わってしまったのだが,帰りのバスはあと3時間以上なく,何もない集落では時間を潰す場所もないので先程の廃長屋を探検した.屋内を覗くと若干ではあるが生活用品等が残されていた.しかし廃屋探検もすぐ終わり,仕方なくその後の2時間余りを廃屋群の隣にあったゲートボール場のベンチで過ごした.持参したラジオ番組を録音したカセットテープが1往復した頃にようやくバスが来,再び3時間の道程を盛岡に戻ったのであった.
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途中の早坂高原.
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鉱業所への入り口.
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軌道は撤去されていた.
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主力だった北陸重機製の内燃機関車.
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簡易分岐器.
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物凄い崖っ縁だ.
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庫の中に押し込まれていた機関車.
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下の工場にあった鉱車.
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