林野庁長野営林局上松運輸営林署小川・王滝森林鉄道(長野県上松町)
1987年8月/富士フイルムAUTO−8DATE
我が国最大規模の森林鉄道として有名な木曽森林鉄道.1975年に廃止されたが,1987年8月に復活を遂げた.
筆者はこの年の夏,恒例の家族旅行で岐阜県の下呂温泉等を訪れていた.下呂を出,木曽街道を長野方面に向かうその道すがら,上松に木曽森林鉄道の面影を求めて立ち寄った.当時でも既にその遺構は殆ど見出すことができず,周辺では有名な鬼渕橋梁程度が残るのみ.線路跡も僅かにその姿を留める箇所もあったが,家族旅行の途中とあってそこまで詳細な探索は諦めざるを得ず,立ち寄る程度のつもりであった.
ところが,どのような経緯だったかは忘れたが,この上松から少し山に入った所に休養林が開設され,何とそこに森林鉄道が動態保存されているという情報を現地で得た.今日のようにインターネットなどない時代である.即時性のある情報を得るのは今から考えると困難であり,現地に行ってみて初めて知ることもまだ多かった.
休養林となれば家族を付き合わせるにも十分な説得材料となり,我々は木曽街道を外れて山道を奥に分け入った.恐らく森林鉄道に沿った道であり,沿道には線路跡を思わせる地形や遺構が散見された.
休養林は近年開設されたようで,真新しい案内看板が要所要所に設置され,当地の観光に対する意気込みのようなものも感じられる.しかし道は狭い上に曲がりくねり,さすが森林鉄道が敷かれた土地であることを実感させられる.
案内看板の「あと○q」の数字は段々小さくなっていくが,道は奥に行くに従って隘路となり,対向車が来ても容易に擦れ違うことはできないほど.しかし周囲の風景は山深く,当日の朝まで降っていた雨により木々の葉の緑が一層映えて見える.
上松から40分程度だっただろうか,休養林の入口が見えてくる.車を停め,入口から奥に行ってみる.入園は無料だったと記憶している.客は少なくはないが多いとも言えない程度.「森林鉄道」と書かれた案内に沿って園内を進むと,山肌の随分上の方に駅舎らしき建物と車両が眺められた.丸太の階段を登ると,山腹の細長い土地に森林鉄道記念館と停車場が広がる.
記念館は車庫風の近代的な建物で,内部に車両が保管されているようだが,何よりその傍らに鉄道模型のようにせせこましく敷かれた細い引き込み線に大変な興奮を覚える.数年前に訪れた東洋活性白土以来の軽便・トロッコの原風景との出会いだ(もっとも,これとて近年作られた物ではあるのだが).
この地に来て初めて知ったことだが,この動態保存は,まさにその年の夏に始められたということであった.筆者にとっては,全く予期せぬ上での訪問であった訳だ.
さて,動態保存は,以前使われていた路盤を利用し,1キロ程度の線路を敷き,記念館等に保存されていた車両を走らせるというもの.蒸気機関車も1両庫外に出されていたが,この日は構内で動いている姿を見るにとどまった.列車は記念館横の停車場を始点として内燃機関車が客車2〜4両程度を牽引し終点で後退して戻るという運行体系で,時刻表を見ると日中に30分毎の運行が設定されていた.乗車賃は500円程度だったと記憶しているが定かではない.
夏休みとは言え当日朝までの悪天候と知名度の低さからであろうか,それ程の乗客はなく,この後に発車する列車の乗車整理券を手に入れることができた.それまで記念館やその周囲に留置されている車両をカメラに収めたり,風景を眺めたりして過ごす.
しばらくするとカーブの向こうからエンジン音と共に列車がやって来た.牽引する機関車は,この動態保存のために新製された「AFT−1」という北陸重機製のディーゼル車だ.後に続くのは,これも新製された客車で,屋根はあるが窓はない.夏休みの乗客を見込んで4両編成としてあるが,今日は空席を持て余している.
低い木製のホームから客車に乗り込む.遊園地の「きしゃぽっぽ」然としたベンチ状の座席が並ぶ.連結器は軽便ではポピュラーな朝顔式ピンリンク型で,現役でこれを装備した車両に乗るのは勿論初である.
定刻になり,列車は走り出した.「ガー」という機関車のエンジン音と,「ガタタン,ガタタン」という特徴のある客車のジョイント音が心地良い.カーブに沿いくねくねとうねりながら列車は森の中を抜けて行く.5分程で終点.線路はこの先まで続いているようだが,列車はここまでだ.ホームなども特にないまま,列車は後退で来た道を戻って行く.
往復10分余りの乗車であったが,本当に動いている森林鉄道に乗った,それだけで十分貴重な体験である.所詮は観光用ではあるが,動かない車両を眺めるしかない筆者のような世代には,それでも貴重だ.
満足感を胸に,赤沢を後にした.
写真をクリックすると拡大します.
客車.これは以前からあるもの.
|
最新鋭のディーゼル機関車.
|
客車を切り離し一旦本線へ引き上げる.
|
1号蒸機の後ろ姿.
|
この時は構内で入れ換えをする姿のみ.
|
下りは推進運転となる.
|
上り列車が到着.
|
客車を牽引しているように見えるが,単機走行.
|
森林鉄道記念館の内部.
|
|
どの車両も保存状態は大変良い.
|
|
小さな客車.
|
庫外のロータリー除雪機.タンク車の姿も見える.
|
軌道モーターカー2種.
|
大変良く手入れがなされている機関車.
|
現役時代を彷彿とさせる姿.
|
現地職員の休憩に使われている客車.何と贅沢な休憩所だろう.
|
有名な理髪車.こちらは展示用か.
|
乗車受付所.
|
(C)Rottem;1998-2024 Alle Rechte Reserviert. |
Rottem |
|