神岡探訪記


特別編その1/神岡鉱山の林用軌道(1)

 2000年7月,友人と共に車で神岡を訪れた.茂住に立ち寄り,大津山への林道が工事のため訪問を断念し仕方なく町内を散策していた.
 車が街の南の外れの国道に架かる橋に差し掛かった時,向こう側にコンクリート造りの,細く古い高架線というか橋梁のような物が川を渡っているのが見えた.橋梁の上面は一面雑草で覆われており,川の部分には橋梁はなく橋脚だけが立っている.
 この時はそこを2回程通り過ぎただけに終わったが,後々この橋に謎の橋について話題になり,あの構造や幅からして鉄道用ではないか,という憶測が飛び交った.しかしあの周辺に鉄軌道があったという話は聞いたことも見たこともない.神岡鉄道の終点はその橋梁のある場所よりずっと北側にあり,まして鉱山用の軌道がこのような河原の方まで来ている筈がない.書籍やインターネットサイトに紹介されているのを見たこともないし,もし少しでも触れられていれば筆者達ももっと早いうちに探している筈である.単に筆者達がその情報を知らないだけなのだろうか.知る限りの資料を探したがその橋梁に関連すると思われる情報は得られなかった.
 時が経ち,1年後の5月,再び神岡を訪問する.この時も気にはしていたのだが,時間の都合等もあって車でそばを通り過ぎただけに終わった.
 さらに3ヶ月後,小雨降る中の神岡訪問時.茂住も栃洞も立入禁止等で見ることができずに神岡の街を離れようとしていた矢先,件の橋梁が視界に飛び込んでくる.そう言えばいつも通る度に気になっているが近寄ってじっくり観察したことはなかった.今日は時間もあるので探索してみよう,ということになった.
 そこは,山側から国道,新築中の道路橋(車の通行はまだできない),少し離れて件の橋梁という順になっており,その向こうに高原川がある.国道や件の橋梁は,高原川から分かれて山側に流れる支流を渡っている.
 車から降りてまず観察する.川が流れている谷はかなりの高さがあり,その橋梁も規模は大きくないのだが高い.道床部分は車が通るにしては非常に狭く,とても道路橋とは思えない.柵等があった形跡もないので人道橋でもなさそうである.橋梁が残っているのは河原の部分だけで,川面の部分は橋脚が2本のみである.と言っても河原の部分は広く,橋梁も川より河原を渡る部分の方が長い.橋梁の下には農作業小屋と思われる簡素な納屋のような物が造られている.
 北側の岸の部分に近付いてみた.民家の裏庭になっていて,既に庭と一体化して鉢等が置かれていた.橋梁に近付いて見るが,簡素なコンクリートの造りである.銘板のようなものは特に発見できなかった.道路橋を渡り反対側の岸にまわる.砂利道の脇に駐車場というか少し空間があり,その川側は崖になっている.ここが橋梁が岸に達していると思われる場所であるが,木や藪が茂っていて近付けない.どうやら藪の中に盛り土のような物が見えるのだがそれが橋梁に関連しているのかどうか判らない.コンクリート片のような物が盛り土から露出しているが,それが橋梁の物かも判断はできなかった.しかし,橋梁が取り付いている向きからしてこの砂利道が橋梁から続く敷地であることが伺える.車に戻りその砂利道を2〜3キロ走ってみたが,途中で道は国道に合流してしまいその先は判らなかった.
 戻り,今度は北側の岸に車で回ってみる.橋梁の直線上には住宅地を抜ける小道が続いている.間違いなく橋梁から続く敷地である.
 橋梁が取り付いている庭の母屋と思われる民家があり,その小道はそこから始まっている.その民家は作業場を併設していて,屋内では初老の男性が作業をしていた.声を掛けて橋梁について訊いてみる.恐らくこの橋梁についてかなりの部分の情報を訊くことができるであろう.廃線探訪では地元民はいつも頼りになる.
 案の定,ここは軌道の跡であるという.軌道ではないかと思ってはいたが,その用途が謎だった.しかしそれも即座に解明された.坑道の支柱に使う木材を運ぶためのものであったという.しかも,終点はこの先の「双六渓谷」で,廃止は遙か50年程遡るということだった.双六と言えば,この神岡の街が終わり,完全に山の中に入った所である.この先は国道でさえ山肌を縫うように通っている.しかも双六まではその国道からさらに分岐する山道を行かねばならないような土地だ.まさかそのような場所を軌道が通っていたとは.「そう言えば…」と同行の友人が言った.筆者は全く憶えていなかったのだが,以前ここに来た時に,まだ神岡の街に入るずっと手前の,鉱山とは何の関係もない場所で,道沿いの地形か建造物かを筆者が見て,「軌道の跡のようだ」と言っていたというのだ.勿論その時はこの軌道のことは知らなかったので,「いつもの見間違い」で済ましていたのだ.こういった趣味を続けていると,鉄道や軌道等が全く存在しなかった場所にいても,地形や建造物がそれらしくなっているとついつい軌道の跡に見えてしまうことが少なくないが,今回は本当に軌道の跡だったのだ.確証はないが,可能性は高い.
 男性によると,詳しくは思えていないとのことだったが,内燃機関車が運材貨車を牽いて,双六渓谷付近で伐採した木材を運んでいたらしい.反対側の終点については詳しくは判らないようであった.
 男性に礼を述べ,車に戻ろうとした筆者達を男性が呼び止めた.町の資料館に,この軌道に使われていた車両(車種は不明)が保存されている,とのことであった.重ねて感謝の言葉を述べ,車に戻る.

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橋梁
林用軌道の橋梁.国道から望めるが,注意して見ていないと見落とす.
橋梁遠望
川の部分は撤去されているが,橋脚は残されている.道路橋にしては幅が狭く,使われなくなってかなりの年月が経っていることが一目で判る.
軌道跡
軌道跡と思われる裏道.住宅街の裏にひっそりと続いている.

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